決めて作っても、運用に入れば必ず変わる——Shopify制作の頼み先が分かれるところ
先に固めなければと考えるのはなぜか
要件は固めてから相談すべきか。前に一度、「要件が決まってから相談」が言えない——Shopify制作の見積もり前を、整理から一緒にやる道具にしたという話を書きました。 要件の整理そのものを相談の中でやればいいという趣旨です。
書いたあとに残ったのは順番より手前の疑問でした。なぜ発注する側は先に固めなければと考えるのか。
発注する側が仕様を決めて、制作会社に渡して、できあがったものを受け取る。制作はそういう形で依頼するものだという前提があるからです。
その形なら要件を先に固めるのは正しい順番です。渡すものが決まっていなければ、発注する側はそもそも依頼ができません。
ShopifyでECサイトを制作するとき発注先で変わるのは制作の品質だけではありません。関係の続き方です。
決めて作っても運用に入れば変わる
どんな制作会社も作る前には設計をします。決められることは決めて作ります。何を売るか。どう見せるか。どう届けるか。設計しないまま構築に入ることはありません。
変わるのはそのあとです。決めた設計どおりに運用が進むことはほとんどありません。
商品が増えてカテゴリの切り方が合わなくなる。送料を変えたらまとめ買いの条件と噛み合わなくなる。定期購入の解約が想定より多い。想定した客層が来ない。検索に思ったように出ない。設計のときに見えていなかったものが動かすと出てきます。
見落としも発生します。決めたつもりで決まっていなかったことが注文の入った日に発覚する。設計の精度を上げれば消えるという性質のものではありません。売れ方だけは作る前に分からないからです。
自社でもPASS COFFEEというスペシャルティコーヒーのショップをShopifyで運営しています。振り返ると、決め直した回数のほうが作るときに決めた回数より多い。送料の閾値も定期購入の設計も最初に置いた数字のままではありません。
自社で作れることがかえって見立てを甘くし、2年でリニューアルを3回しました。
分かれ目は、要件を固めきれるかどうかではありません。固めて作ったあとに出てくる変更と見落としを誰がどう拾うか。ここで「納品で完了する関係」と「構築後も続く関係」が分かれます。

拾うものが少ない店なら、納品で完成する
出てくる量は店によって違います。
商材が決まっていて売り方も定まっている店があります。機能を足す予定も作り替える予定もない。そういう店ならあとから拾うものは限られます。
納品後もその店が自社だけで回せます。数年に一度のメンテナンスやShopifyのアップデートへの対応で足ります。
納品で終わる形は速い。作るものがはっきりしているぶん頼む側も作る側も迷いに時間を使いません。
決めることが少ない時期に定例の打ち合わせを置くと議題がないまま時間だけが過ぎます。そういう店に必要なのは決める場ではなく決まったものを形にする力のほうです。そこは納品で完結する頼み方がいちばん強い。
伴走がいつでも正しいわけではありません。決まっているものを決まっているとおりに作る仕事に、決める場を足す理由はないからです。
都度で足りるのか、続く前提で組むのか
開店後に来るのは決め直しだけではありません。止まることも来ます。
入れていた機能が動かなくなる。更新のあとで表示が崩れる。決済の設定が変わって注文が通らない。
以前、壊れたとき、誰が直すのかという記事を書きました。CMSを選ぶときの話でしたが構図は頼み先を選ぶときも変わりません。異変に気づく側と手を入れる側が離れているとあいだに連絡の往復が発生します。
納品で終わる契約ならその後は都度の相談になります。それが不親切だという話ではありません。範囲がはっきりしているぶん、頼む側も何にいくら払うのかが分かります。
効いてくるのは頻度です。年に一度あるかないかなら都度で足ります。継続の枠を先に用意するほうが重くなる。
毎月のように起きるなら起きる前提で組んでおいたほうが速い。頼む側が連絡して、状況を説明して、見積もりを待つ。その往復が積み上がると直る速さは技術ではなく手続きで決まってしまいます。
直せば済むのか、設計に戻るのか
頻度と並んで効いてくるのが出てくるものの大きさです。
文言を直す。項目を1つ足す。表示の順番を入れ替える。この種類は手を入れる場所がはっきりしています。誰が引き継いでも結果は変わりません。
厄介なのはもう一方です。商品の持ち方を変える。会員の区分を作り直す。定期購入の仕組みを入れ替える。画面の上では小さな変化でも、店は最初の設計まで戻って決め直すことになります。
ここで差がつくのは技術力ではありません。手を入れる相手がなぜその設計にしたか、その背景を知っているかどうかです。
設計から関わった相手ならどの案を落としたか、何を優先して何を諦めたかが手元に残っています。だから変えていい範囲と変えると別のところが崩れる範囲を見分けられます。
あとから引き継いだ相手はまずそこを読み解くところから始めます。仕組みは読めば分かる。ただ、当時なぜそう決めたのかまでは残っていないことが多い。理由の分からないものを壊さずに直そうとすれば大きく作り直す提案になりがちです。頼む側が払う金額も期間も膨らみます。
ここでも効いてくるのは頻度です。設計まで戻る変更が数年に一度なら店はその都度読み解いてもらえば足ります。読み解き代を毎回払っても続く枠を持ち続けるより安く収まる場合があります。
年に何度も設計に触るなら話は変わってきます。読み解きの時間が毎回乗るぶん、設計を知っている相手と続けたほうが速い。
アプリで足すのか、作り込むのか
機能を足したいときの選び方も変わります。
Shopifyではたいていのことをアプリで足せます。入れればその日から動きます。作り込むより早く初期の費用も小さい。頼む側が自分で入れられるものも少なくありません。
納品で終わったあとはこの足し方が中心になります。作った相手にもう一度見積もりを取るよりアプリを1つ入れるほうが手間も費用も軽いからです。
ただ、アプリの月額は積もります。1つは小さな額でも5つ入れば毎月の固定費になる。入れたアプリ同士が干渉して表示が崩れることもある。アプリの提供が終わればその機能ごと止まります。
設計を知っている相手が続いていれば小さいものはサイト側に直接組めます。表示を1つ足す。条件で出し分ける。この程度ならアプリを増やさずに済むことが多く月々も増えません。
逆に、定期購入やレビューのような重い仕組みはアプリに任せたほうがいい。自前で作れば動かし続ける責任は店と作った会社に残ります。作った人が離れれば触れなくなる。アプリの場合はベンダーが持ってくれます。
小さいものは組む。重いものは任せる。この線を引けるかどうかが月々の固定費に効いてきます。
設計の範囲はサイトの中とは限らない
もうひとつ、設計の範囲が違います。
サイトを作る仕事の範囲ははっきりしています。何を載せて、どう見せて、どう買えるようにするか。ここには終わりがあります。
ただ、商品が売れないときの原因はサイトの中だけにあるとは限りません。
そもそも人が来ていない。来ても何の店か分からずに帰る。買う手前で迷って止まる。一度買ったきり戻ってこない。導線のどこで止まっているかによって手を入れる場所はまったく変わります。
商品ページの作り込みで解けることもあれば、広告の入り口を変えるだけで解けることもある。買ったあとに店から何も届いていないだけという場合もあります。
だから設計の範囲を認知されてから買われてまた戻ってくるまでの一続きで取ることがあります。どこから来た人が何を見て、何で決めて、次にいつ戻るか。サイトはその途中の一区間になります。
PASS COFFEEでも手を入れた場所はサイトの中だけではありません。広告の入り口と買ったあとの案内にも時間を使っています。
この範囲まで受け持つかどうかは伴走型と名乗っていても会社によって違います。作る範囲だけを持つところもあれば集客と購入後まで一緒に設計するところもある。
だから頼む側が先に確かめるのは月に何時間かではありません。どこからどこまでが必要かを一緒に考える相手なのか、です。
制作費は同じ。違うのはいつ何に払うか
費用の見え方も変わります。
まず、作るところの単価はどちらでも変わりません。設計して作る工程が違うわけではないからです。伴走型だから制作費が軽くなるということはあまりありません。
変えられるのはいつ何を作るかのほうです。
関係が続く前提で組むなら最初に全部を作り切らない進め方が取れます。要るものから作って、動かして、次に何が要るかを見てから決める。設計にも幅を持たせておけば途中で方針を変えても作り直しになりません。
一度に作り込むと使われなかった機能の分まで先に払うことになります。開店前に「たぶん要る」で入れたものが半年後に一度も触られていない。珍しくありません。
分けて作ればそこは払わずに済みます。結果として総額が小さく収まることもある。
ただし、いつでもそうなるとは限りません。分けたぶん打ち合わせや議論の機会は増えます。最初から作るものが決まっているなら一度にまとめて作ったほうが安く早いです。
払い方も違います。納品で終わる形なら作り終えた時点で費用は止まります。次に払うのは何かが起きたとき。都度の見積もりになるので必要になるまで出ていきません。かわりに、いつ・いくら要るのかは先に読めません。
伴走関係なら制作費のあとに月々の費用が乗ります。総額が先に見えないのはこちらです。かわりに毎月の額は読めて決める場も毎月あります。
だから比べるのは金額ではなく出方です。読めない代わりに使わなければ出ていかないのか。読める代わりに使わない月も出ていくのか。判断が続くかどうかでどちらが無駄になるかが変わります。
開店から半年でやりたいことを3つ書き出す
見分け方は複雑ではありません。
これから作るECで開店から半年のあいだにやりたいことを3つ書き出す。
3つとも「作る」なら納品で足ります。作るものが決まっているのなら決め直す場は要りません。制作費のあとに月々を足す理由もない。
二つ以上が「試す」「変える」「様子を見て決める」なら作る力だけでは足りません。作り終えたところから本番が始まるので、終点を置く契約とは形が合いません。
分かれ目は一つだけです。開店した日が、仕事の終わりになるのか、始まりになるのか。